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初めての厚田の夜 [移住生活のはじまり]

厚田に着いて、玄関を開ける。「ただいま、厚田のおうち!」
するとダーリンが、「もう『厚田の』は要らないよ、ここが僕たちのおうち」
そうだったね、もう他におうちはなくなったんだった。

配達先を変更してから初めてのトドック配達があった。
配達担当者にご挨拶し、不在時の置き配場所など摺り合わせ。
リサイクルショップから冷蔵庫も届いた。
持参した冷蔵庫内の食品も、保冷された状態のまま、新たな場所に収まった。
しなければならないことは山ほどあるが、
火はカセットコンロが、水は備蓄水が、食品は冷蔵庫に、と
暮らすために最低限のものは準備できた。
あとは寝る場所を確保すれば、生活が始められる。

一番虫が少なくて、ハウスダストも少なそうな2階のフローリングの部屋、
通称『ぼくの部屋』を寝室と決めて、がっちり集中して掃除した。
二人でベッドマットや寝具をエッチラオッチラ2階に運び、
枠の組み立てはダーリンにお願い。
と、ここで問題発生。

「印鑑が入ってた小さな引出しはどこ?」
「あれと一緒にあったよ、積込の時にどこに入れたの?」
「入れた記憶がない・・・載らなくて一旦出して仮置きしたコンクリの所かな・・・」
「え・・・札幌に置いてきちゃったの?」
「わからない」
私も荷下ろしした際に見た覚えもない。てか、最後の朝にバタバタ突っ込んだ荷物は
荷造りというより放り込んだだけなので何がどこに入ったか記憶がない。
入れた可能性がある荷物を探してみたが、見つからない。
これがないと今後の生活に大きな支障を来たす貴重品だ。血の気が引く。
「今日は平日だし、管理人さんに見てもらおう!」
管理人事務所に電話したが、「おかけの番号は現在使われておりません」だと!
管理会社が変わった時に事務所の電話番号も変わったのか?

あとは緊急時にかけるための管理人さんの自宅の番号しかわからないが、もう
勤務している時間だし、ああ、どうしたらいいんだろう。
「とりあえず札幌に取りに行く」
え!? ええ!? ・・・でもそれしかないか。
「もしかしたら無意識にどこかの隙間に突っ込んでるかもしれないので、
私もゆっくり冷静に荷物を探しなおしてみる。何かわかったら電話するから」
居住中は管理人室に直接行けば事足りたので、電話番号は確認していなかった。迂闊!
ダーリンはとるものもとりあえず、札幌へと車を走らせて行ってしまった。

落ち着け、落ち着け。最後に見たのはいつだ。
突っ込んだにしても、少しは記憶がある筈だ。
自分のクセとして、こういうものは何と同類だと思って分別するだろう?
全然思い出せないが、とにかく最後の荷物をひとつずつチェックだ。
1時間以上あれこれやっているうちに、見つかった!
急いでダーリンに電話する。
「良かった、でもとりあえず戻って載せ切れなかったものを積んでくるよ」
ごめんね、ごめんね。ちゃんと管理できてないばかりに無理に一往復させちゃうなんて。

3時間ほど経ってダーリンが無事帰ってきた。
大変だったろうに、腹も立っただろうに、穏やかに。
管理人さんの携帯番号も聞いて、
もう管理人さんがさっさと撤去していた廊下のコンパネも回収してきてくれた。
ありがたくって、申し訳なくって、泣きそうになった。


戻ってきたダーリンはベッドを組み立ててくれた。
なんやかやとやっているうちにすっかり暗くなって、照明が付いていない部屋ばかりの
暗いおうちの中で、寝室だけがちゃんと部屋の体をなしていた。
たった1ヵ所だけでも落ち着く場所ができてホッとした。

寝具を整えていると、ダーリンが「あっちの部屋」と呼びに来る。
照明のない南側の部屋の窓から、見事な満月が見えた。
湿気を帯びた空に、ほんのり紗がかかったような満月が、山の端の上に光っていた。
あまりの美しさに、二人でしばらく見惚れていた。
本来なら2日前に厚田での夜を迎える筈だったけど、今晩だったからこそ見られた風景。
「厚田の初日がこの風景だなんて、札幌に余分に2泊したのは必然だったかもねぇ」と
ダーリンが言う。
そうだね。本当にそうだね。
厚田の風景は、わたしたちを確実に勇気づけてくれた。


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